研究概要 |
単分子磁性体の熱容量測定による研究 [Mn^<III>_8Mn^<IV>_4O_<12>(RCO_2)_<16>(H_2O)_4]に代表される多核錯体は単分子で磁気ヒステリシスを生じるという珍しい挙動を示すため,単分子磁性体と呼ばれており,近年盛んに研究されている。この種の錯体では磁気モーメントの反転に関してトンネル機構が提案されており,低温における熱容量の磁場依存性はその機構解明に対して重要な知見を与えるものと期待される。今回,UCSDのHendrickson教授との共同研究で,基底状態の全スピン量子数がS=9である[Mn_<12>O_<12>(EtCO_2)_<16>(H_2O)_3]多結晶の磁場中での熱容量測定をQuantum Design社製のPPMSを用いて行った。その結果,磁気測定から磁場効果が大きく現れると予想される0.7Tの磁場印加での熱容量が大きな磁場依存性を示した。すなわち,ブロッキング温度約3.5Kを境として熱容量が変化した。この温度より低温側では磁化反転の緩和時間が長いために熱励起が妨げられ,熱容量が小さくなっている。零磁場の熱容量にはこのような熱異常は観測されなかった。ブロッキング温度より高温側の熱容量を,共鳴トンネル効果が起こると仮定した場合の熱容量の計算値と比較すると,おおむね測定値の傾向を再現した。このことは磁化反転に関する共鳴トンネル効果が確かに存在することを示唆している。
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