研究概要 |
2当量の5-ニトロサリチルアルデヒドと1当量のmeso-スチルベンジアミンの縮合により得られるシッフ塩基配位子を含むオキソバナジウム(IV)錯体を合成し,その構造と性質について研究した. X線構造解析により,この錯体は・・・V=O・・・V=O・・・の一次元鎖状構造をもつことを明らかにした.この錯体は,すりつぶすことにより橙色から濃褐色へと変化する.固体の反射スペクトルでは,すりつぶす前に見られた750mm付近の吸収帯が消失し,明瞭な吸収が見られなくなる.Nujol法を用いた錯体のIRスペクトルでは905cm^<-1>に一次元鎖状構造錯体に特有なV=O伸縮振動が観察された.一方,この錯体のIRスペクトルをKBr錠剤法で観測するとV=O伸縮振動の強度は大きく減少した.さらに,十分にすりつぶした錯体のNujol法を用いたIRスペクトルでは,V=O伸縮振動の強度の大きな減少が同様に見られた.また,粉末X線回折(CuKα,5<2θ<40°)では,すりつぶすことにより回折ピークがほとんど消失し,アモルファスな状態となることが示された.磁化率の温度依存性の測定から,錯体をすりつぶすことにより一次元鎖内の分子間の強磁性的な相互作用が大きく減少していること明らかになった. 以上の結果から,錯体2をすりつぶすことにより・・・V=O・・・V=O・・・の結合が一部切断され,重合の程度の異なる多種類の一次元鎖状構造の錯体種の混合物が生成すると推定される.異なるV=O伸縮振動数を持つ錯体が多数存在するためIRスペクトルのV=O伸縮振動は広いエネルギー領域に分散し,このため,明瞭に観察されなくなると結論した.
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