研究概要 |
成体のB6C3F_1マウスにdiethylnitrosamine(DEN)を投与した後,ラットの古典的肝プロモーターであるphenobarbital(PB)を含む食餌を慢性的に与えると,肝腫瘍の発生数は対照群に比べ約5倍増加する。これに反し,離乳前の同マウスをDENを処理した後PBを与えると,腫瘍数は約10分の1に減少することが知られている。このようなPBの二面的作用は,マウスを利用した実験結果のヒト発癌への外挿という実践において極めて重大な問題であり、その後解明を必要とする。我々は昨年度までに,1)成体B6C3F_1マウスをDEN処理した場合,好酸性,好塩基性の両組織型腺腫前駆細胞が惹起される一方,離乳前B6C3F_1マウスをDEN処理した場合は殆ど選択的に好塩基性腺腫前駆細胞のみが惹起されること,さらに,2)PBが好酸性肝細胞腺種の発生を促進するのに対し,好塩基性肝細胞腺腫細胞の増殖は抑制するため,PBの一見逆説的な作用が観察されることを明らかにしてきた。 興味深いことに,B6C3F_1マウスの場合とは異なり,C3H/HeマウスならびにBALB/cマウスではDEN投与時期にかかわらず,PBは肝発癌促進作用を示すことが知られている。我々のモデルに従えば,これら2系統のマウスでは,離乳前マウスをDEN処理した場合にもPBのプロモーション作用に反応する好酸性腺種前駆細胞が発生するものと考えられる。本年度の研究により,我々の仮説通り,C3H/HeおよびBALB/cではDEN投与時期にかかわらず,PB処理後に発生する腫瘍の半数以上が好酸性肝細胞腺種であることが明らかになった。よって,離乳前DEN処理による好酸性および好塩基性腺種の前駆細胞の発生比率は,マウスの遺伝的背景に大きく依存するものと結論される。
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