研究概要 |
一般には,癌抑制遺伝子として認識されているWT1遺伝子は,ほとんど全ての白血病患者で異常高発現していることを見い出したが,以下の事実より,WT1遺伝子は,造血組織ではleukemogenesisを進める癌遺伝子ではないかと推測される。(1)初診時のWT1の発現レベルが高いほど,白血病の予後が悪い,(2)再発時,白血病細胞当たりのWT1遺伝子の発現量が,初診時に比べて上昇する,(3)WT1遺伝子に対するアンチセンスオリゴDNAを用いた研究で,K562などの白血病細胞株の増殖や患者白血病細胞の白血病コロニー形成能が特異的に抑制される。 WT1遺伝子のleukemogenesisへの関与を明らかにするため,IL3 dependent細胞株32Dc13にWT1遺伝子を遺伝子導入した。コントロールの細胞株は,IL3刺激を解除し,G-CSFを投与すると,芽球形態から,10日後には顆粒球にまで分化し,増殖は止まるが,WT1導入細胞株では同様の処理を行なっても,芽球形態を維持したまま,増殖し続けた。この系を用いて,G-CSFレセプターからのsignal transductionを解析したところ,WT1遺伝子を導入された32D細胞では,IL3除去後のG-CSF刺激に対して,Stat3 α,Stat3 βの両者の活性化が持続的に生じたのに対して,コントロールの32D細胞では,Stat3 αは一時的に活性化されたのみで,Stat3 βは,全く活性化されなかった。WT1遺伝子産物が結果として,Stat3 isoformの量的な変化をもたらしているということが示唆された。一方,WT1遺伝子の標的蛋白を同定することを目的として,K562細胞において,West-Western法を用いて,WT1蛋白に特異的に結合する,115kdの未知の蛋白の同定に成功した。現在,この蛋白の解析中である。
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