研究概要 |
白血病細胞の増殖機構を解明しその制御法を開発する目的にて,種々の白血病症例および得られた白血病細胞株においてJAK2およびSTAT5の恒常的活性化と,STAT経路および関連した細胞内シグナル伝達経路の異常につき検討を行い下記の結果を得た. 急性リンパ球性白血病および急性骨髄球性白血病患者より樹立された細胞株;それぞれTMD-5およびTMD-7においてSTAT5の恒常的活性化が認められた.より詳細な検討により,TMD-5およびTMD-7におけるSTAT5の恒常的活性化は,STAT5自体の変異やJAK2の異常活性化によるものではなく,それぞれPh1染色体転座によるp190BCR/Ablの発現およびSrcファミリーチロシンキナーゼLynの過剰発現と活性化によることが結論された。また,このことに一致し,TMD-7の細胞増殖はJAK2の阻害因子AG490ではほとんど影響を受けず,Srcファミリーの阻害因子PP-1にて強く抑制を受けることが見出された.TMD-7におけるLynの異常活性化に関しては現在遺伝子・蛋白のレベルにて原因を検討中である. さらに,STAT5の恒常的活性化を認めた2例においては,細胞内アダプター因子CrkLにも恒常的チロシンリン酸化が認められ,両者が細胞内にて複合体を形成していることが見出された.そこで,CrkLの造血細胞内における機能をマウスの造血細胞株32Dにて検討し,CrkLがRas/MAPキナーゼ経路の活性化およびインテグリンを介した細胞接着の調節に重要な役割を果たすことを見出した. また,上記の細胞を含め検討した白血病細胞の多くはインターフエロンα(IFNα)刺激により,従来より報告されているSTATl・STAT2・STAT3以外にSTAT5やSTAT6の活性化をも高頻度にもたらすことを見出した.これらの白血病細胞ではIFNα処理により増殖も抑制されることが見出された。
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