研究概要 |
FabやFvなどの抗体フラグメントは,標的組織への速やかな移行性や均一な組織分布を示し,癌の画像診断や内用放射線治療における放射能の運搬体として優れる.しかし,RI標識抗体フラグメントは,投与早期から長時間に渡る腎臓への放射能の集積を示し,診断や治療における大きな障害となっている.我々は,刷子縁膜酵素の作用により抗体フラグメントから尿排泄性の放射性代謝物を遊離する標識試薬HMLを開発した.本研究では,HML標識Fab投与後のマウスにおける放射能動態を詳細に検討した. HML標識Fabは,投与早期から腎臓の放射能を放射性ヨウ素の直接標識から作製したI-Fabに比べて,大きく低減した.また,酵素認識部位がFabから離れて存在するHML-IT-Fabは認識部位がFabの近傍に存在するHML-Fabに比べて,腎臓の放射能集積を有意に低減した.腎細胞内放射能分布を調べた結果,I-Fabは投与10分から30分で膜画分からリソソーム画分へと移行した.一方,HML-FabおよびHML-IT-Fabは,両投与時間において膜画分にのみ放射能が観察された.I-Fabは,投与10分後に腎臓に未変化体として存在したが,HML-IT-Fabは未変化体とメタヨード馬尿酸が,また,HML-Fabでは,この他に数種の中間代謝物が観察された.HML-FabおよびHML-IT-Fabを投与して6時間後までに尿中へ排泄された放射能は,その約90%がメタヨード馬尿酸であった.以上より,HML結合Fabは抗体が細胞に取り込まれる前に,メタヨード馬尿酸が遊離され,これが速やかに尿中へと排泄されるため,投与早期から腎臓での放射能集積を大きく低減したと考えられる.腎臓刷子縁膜酵素の基質を分子内に有する標識試薬の設計は,抗体フラグメント,さらには低分子量ペプチドの投与で観察される腎臓での放射能滞留の解消に有用と結論される.
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