【要約】 病原体認識に関わる分子Toll-like receptor4について以下の点を明らかにした。 1 TLR4に会合する分子MD-2をクローニングした。 2 ヒトTLR4はLPSを認識するが、その際にMD-2の会合が必須である。 【研究目的】 今まで謎であった、病原体を認識するレセプター分子とその認識機構を分子レベルで明らかにする。これにより、癌免疫療法における免疫賦活剤として用いられてきた病原体由来の物質に変わる新たな免疫賦活剤の開発のための理論的基盤となることが期待される。 【方法と結果】 1 TLR4はLPSに低応答性を示すミュータントマウスC3H/HeJの原因遺伝子であり、LPSレセプターであると考えられていた。しかしながら、ヒトのTLR4を細胞株に単独で発現させてもLPS応答性は獲得されなかった。我々はTLR4によく似たRP105をすでにクローニングしており、それに会合する分子MD-1も同定していた。MD-1によく似た分子がTLR4に会合し、LPS応答性に重要ではないかという仮定のもとに、MD-1類似分子をデータベースにて検索し、新たな分子MD-2の遺伝子クローニングに成功した。 2 新たに作成したヒトTLR4に対するモノクローナル抗体を用いてTLR4を免疫沈降したところ、MD-2がTLR4とともに共沈されることが明らかとなった。従って、TLR4とMD-2が会合していることがわかった。 3 IL-3依存性細胞株であるBa/F3にTLR4単独、TLR4とMD-2を発現させ、同時に導入したNF-kBレポーター遺伝子でLPSシグナル伝達によるNF-kB活性化をルシフェラーゼアッセイで測定した。その結果、TLR4単独ではLPS応答性は見られないが、MD-2の共発現により応答性が獲得されることが明らかとなった。この事実から、TLR4とMD-2複合体がLPSを認識していることが明らかとなった。 【考察】 LPSは強力に免疫細胞活性化を誘導するにも関わらず、その認識機構は長い間謎であった。Positional cloningの結果TLR4がそのレセプターであることが示唆されたが、我々の結果によって、TLR4とMD-2の会合が重要であることが明らかにされた。この結果は、免疫システムにおいて、病原体が抗原レセプターとは異なる分子によって認識される機構を分子レベルで明らかにするうえで、重要な糸口となると考えられる。この機構の解明は、免疫システムの制御技術開発のうえでも重要であり、癌免疫療法に貢献しうると期待される。
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