研究概要 |
ショウジョウバエではDppやWgといった細胞増殖因子が細胞分裂・分化、体軸の決定、パターン形成といった現象に重要な役割を果たすことが知られている。しかしこれらの分子の細胞膜表面における受容機構については不明な点が多い。Dallyは細胞膜ペパラン硫酸プロテオグリカンであり、複眼や触角の発生においてはDppの、胚表皮ではWgの補受容体として機能する。このことは、糖鎖構造の変化により、Dallyが異なる組織では異なるリガンド特異性をもつことを示唆している。一方、dally変異体の表現型から、この分子が成虫翅および背板の発生過程では複数の細胞増殖因子シグナル系で働いていることが予測される。本年度、Dallyのリガンド特異性の制御機構を理解する目的で、Dallyの翅・背板形成過程における機能を解析し、次の結果を得た。(1)dally変異体成虫翅では、翅縁の感覚毛の数が著しく減少する。(2)dally変異体の成虫背板では、11種の機械感覚毛のうちaDC,pSA,pPAが欠失する。(3)dally遺伝子は末梢神経系発生のもっとも初期のステップであるプレパターン期において機能している。(4)dally変異体の成虫背板表現型に関して遺伝学的解析をおこなった。aDC,pSAの表現型は、DppのタイプII受容体であるpuntの変異により増強された。また、pPAの表現型はwg変異により悪化した。以上の観察はaDC,pSAの形成過程にはDallyがDpp補受容体として、一方、pPA形成過程では、Wg補受容体として機能していることを示唆している。以上のことから、Dallyが、翅・背板の発生過程において、複数の細胞増殖因子リガンドと特異的に相互作用することが判明した。すなわち、Dallyのリガンド特異性は個々の細胞レベルで調節されていると考えられる。
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