研究概要 |
申請者らは,アスパルチルプロテアーゼであるヒトレニン(hRN)とその基質でありアンジオテンシンIIの前駆体・ヒトアンジオテンシオーゲン(hANG)に関する発生工学的研究を行い,♂hRN導入(Tg)マウスと交配させた♀hANG-Tgマウスにおいて,妊娠期間特異的に高血圧が誘発されることを世界で初めて発見した(Science274,995-998,1996:研究業績4).この時に,タンパク尿の排泄,腎臓疾患,胎盤浮腫および求心性心肥大等の臓器障害や痙攣発作を伴う"妊娠中毒症"に類似した症状が見出された.さらに興味深いことに,胎児の子宮内発育遅延(intrauterine growth retardation:IUGR)が明らかとなった(投稿中).しかし,♂hANG-Tgマウスと交配させた♀hRN-Tgマウスでは,妊娠中にこのような症状は観察されなかった. ごく最近申請者らは,アストロサイトで産生されるホルモン・アンジオテンシン前駆体(アンジオテンシノーゲン)の遺伝子ノックアウトマウス(Agt-KO)に一過性の虚血浮腫モデル(凍結損傷:cold injury)を施して,Evans blueの漏出を指標に血液脳関門(BBB)の機能的回復を検討した.その結果,野生型と比べてその回復は著しく障害されているが,アンジオテンシンの投与によって有意に機能修復されることを証明し,未知のアンジオテンシン受容体の存在を予測した(Nature Med.4,1078-1080,1998:研究業績1).また,hypoxiaなどの母体の病的状態下における胎児脳の内部環境のhomeostasisとBBBの制御機構がどのように影響されるのかは全く不明である. そこで本研究は,プロテアーゼカスケードの妊娠時期特異的な活性化機構とその生理作用を明らかにするために,以下の2点に焦点を絞ることとした. (1)時期特異的な活性化機構の解明:交配パターンの組み合わせによって,プロテアーゼカスケードの活性化に相違が生ずるメカニズムを明らかにした. (2)胎盤及び胎児脳の機能形成の解析:胎盤機能とIUGRを伴う胎児脳のBBBの形成過程を明らかにする為に,現在胎児と新生児の脳におけるBBBの機能検定の実験系の確立に取り組んでいる.
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