本研究は、音源の定位に関わる、鳥類層状核(NL)細胞での鋭い同時検出を可能にするメカニズムを細胞生理学的に明らかにすることを目的としている。昨年度までに、NL細胞での同時検出の精度が、GABA作動性入力によって向上しうる事を明らかにした。しかし、実際に音刺激を与えた時にNL細胞で観察される同時検出機構の精度を説明するには至らなかった。1)これらの実験は、左右のNM細胞からの投射線維を0.3Hzで電気刺激して行っており、生体で、音情報をNL細胞が処理する場合に比べはるかに低頻度である。そこで、本年度は、生体に近い高頻度刺激(100Hz 10発)でのNL細胞での同時検出を評価した。(1)NL細胞ではNMからの投射線維を高頻度刺激すると顕著なシナプス抑圧(EPSCの振幅の減少)が認められ、その程度は、同側、対側でほぼ同等であった。(2)同側、対側の高頻度刺激による同時検出の精度を1〜10発目まで、個々に評価すると、シナプス抑圧の顕著な高頻度刺激の後半で同時検出の精度が向上した。この精度は、0.3Hzで刺激した場合の精度を上回った。(3)シナプス抑圧の原因として伝達物質放出量の減少と、AMPA型受容体の脱感作が考えられた。2)Tonotopic axisに沿って、NL細胞の受動的性質、興奮性入力、膜電流系を調べた。(1)高音部では約30pF、低音部の細胞の膜容量は約60pFと2倍の差があった。(2)EPSCの時定数は高音部で0.8-1.3ms、低音部で2.5ms以上で大きな差があった。(3)高音部での低閾値で活性化される膜電流(l_K)の発達が示唆された。これらの結果はコードする周波数帯域に依存して、NL細胞が機能的に分化していることを示唆した。今後、1)に関しては、GABA存在下で高頻度刺激での同時検出を再評価する。また、シナプス前抑制など他の同時検出の精度を向上させる要因を明らかにし、in vivoでの両耳間時差検出機構にさらに迫りたい。2)に関してはNLに入力する時系列信号の特徴(phase-lockの状態など)を周波数帯域別に考慮しつつ、NLでの両耳機構の全体像を明らかにしたい。
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