研究概要 |
本年度は,遮蔽物体を認識する機構の神経回路モデルと,位置不変性のある受容野の自己組織的に形成させるための学習則に重点を置いて研究を進めた. 遮蔽物体の認識 紙に書かれた文字や単語の一部がインクで汚れて隠されていても判読できることが多いが,その汚れを取り除いて汚れていた個所を白くしてしまうと,その欠損個所のある文字や単語の判読は非常に困難になる.つまり,見えない遮蔽物体で覆われたパターンはほとんど判読不能であるが,遮蔽物体が見えると簡単に読むことが出来る.そこで,なぜ遮蔽物体が見える場合に認識が容易になるのかを説明する仮説を提唱し,その仮説に基づいて神経回路モデルを構成し,コンピュータシミュレーションを行なった.モデルは,筆者が以前提唱した神経回路モデル「ネオコグニトロン」を拡張した階層型の神経回路で,低次の特徴抽出細胞のうちで,遮蔽物体が受容野に含まれるような細胞の出力を抑制する機構を持っている.遮蔽によって認識対象パターンに無関係な特徴が現われるが,無関係な低次特徴が高次段に送られないので,遮蔽されたパターンでも正しく認識することができる. 位置不変性受容野の自己組織化 第1次視覚野に見られる複雑細胞のように,最適刺激が受容野内のどこに提示されても反応する細胞を,自己組織的に形成させるための新しい学習則を昨年度提唱した.この学習則によれば,入力層を横切って動く種々の方位の直線を学習刺激として与えているだけで,単純型や複雑型の受容野を自己組織的に形成させることができる.本年度は,この学習則の性質を詳細に調べるとともに,学習時に与えられる学習パターンが多少不完全でも自己組織化ができるように,この学習則の改良に取り組んだ.
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