ガンマ周波数帯(40〜60Hz)の活動は感覚野を中心に、運動野、小脳など広範な脳の領野で観測され、刺激の受容や認知、あるいは注意現象といった高次脳機能との関係性が注目されている。しかしその機能的な役割についてはほとんど理解されていない。本研究ではこのガンマ振動活動の機能的役割として、錐体細胞間での情報伝達に伴うアナログ・デジタル変換を、理論的に提案した。物体の運動や動物自体の運動などはアナログ量により表現される。従がって脳にとって関心のある情報の多くはアナログ量である。しかるに、神経細胞どうしは、スパイクというデジタル量により情報を伝達する。従がって神経細胞は、双方向のアナログ・デジタル変換を行わねばならない。従来、この変換は発火率を介して為されるものと考えられてきた。しかしこの考え方にはいくつかの欠点がある。 有棘樹状突起は、電気生理学的に低減濾過器として働くという性質があり、遮断周波数は錐体細胞では20〜30Hz程度であることが理論的に予想されている。錐体細胞が関心を払うのは遮断周波数以下の信号情報だけであるとすれば、信号の全フーリエ成分の情報を送る必要はなく、遮断周波数の二倍の周波数でサンプルした振幅データ列を送ってやれば、もとの信号を低域濾過により再現出きる。これはサンプリング定理として知られる事実であるが、このことを今の場合に当てはめると、サンプリング周波数は40〜60Hzとなり、ちょうどガンマ周波数帯に一致する。但し、ニューロンはデジタル送信器のように、スパイクの振幅を変調して信号の振幅情報を送信することは出来ないので、振幅情報を40Hzで同期発火する神経集団の、各ガンマ周期での集団発火率により符号化するモデルを提案した。 この他にも、大脳皮質VI層のChattering cell のモデル化や、大脳皮質-線条体神経投射の機能的形式に関する研究を行った。
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