研究概要 |
植物組換え技術は,主に導入遺伝子による品種改良を目的として発展してきた。昆虫病原微生物である卒倒病菌(Bacillus thuringiensis,Bt菌)由来の殺虫性タンパク質(ICP)遺伝子を含む害虫抵抗性のジャガイモやトウモロコシはその代表的な例である。近年,このような作物の増産を目指す「第一世代遺伝子転換作物」からさらに発展して,生理・免役活性作用を持つ機能性タンパク質を農作物に発現させる「第二世代遺伝子転換作物」の開発が進められている。 我々は、さまざまな感染症に対する植物による「食べるワクチン」の開発を試みているが,その基礎研究の一環として熱帯熱マラリア抗原を粘膜免疫アジュバンドであるコレラ毒素B鎖(CTB)との融合タンパクとして植物に発現させることを試みた。その前段階として,アグロバクテリウムに融合タンパクを発現させることに成功したのでここで報告する。我々は以前,ルシフェラーゼ遺伝子を用いて,植物発現プロモーター(CaMV35S)がアグロバクテリウム菌体内で微弱ながら活性化を持つことを確認している。今回,CTB遺伝子のC'端側に6〜10アミノ酸からなるヒンジ領域を介して,熱帯熱マラリア原虫のワクチン候補のひとつであるserine repeat antigen(SE47')を融合させた。さらに我々は,植物由来のCTB-ワクチン抗原融合体が粘膜免疫活性化作用を持つためには,5量体を形成し,コレラ毒素レセプター(GM_1ガングリオシド)との親和性を保つことが重要であることも確認している。アグロバクテリウムは,微量ながらGM_1ガングリオシドと特異的に結合する5量体分子構造を保つ遺伝子導入産物を発現していることがGM_1-ELISAによって確かめられた。現在,このアグロバクテリウムをベクターとして,タバコ,ジャガイモおよび,バナナの遺伝子転換実験を行っている。
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