研究概要 |
背景と方法 ショウジョウバエゲノムの遺伝子をランダムに選択して強制発現することができるGene Searchシステムを用いて,寿命延長効果を有する遺伝子のスクリーニングを行った.Gene Search(GS)系統にはゲノムの一カ所にUASエンハンサーと基本プロモーターユニットを含む強制発現ベクターが組み込まれている.そのままでは変異形質を示さないが,GAL4転写活性化因子を発現する系統と交配することにより,そのF_1個体においてベクター挿入地点にある遺伝子を強制発現させることができる.本研究では,hsp70-GAL4系統(熱ショックプロモーターで制御できるGAL4遺伝子)と交配してF1を作出し,成体になるまでの発生過程は25℃で,成虫期以後は30℃で飼育して,ベクター挿入地点にある遺伝子を強制的に発現させた.これらの個体の寿命を測定し,野生型と比較して寿命を延長する効果を示すベクター挿入株を探索し,且つそれらの個体において強制転写された遺伝子の同定を試みた. 結果と考察 約1,000のGS系統をhsp70-GAL4系統に交配して,F1個体の成虫寿命を30℃において測定したところ,極めて大きな変異が見られた.ベクター挿入をもたない系統を交配した対照群のF_1個体の平均寿命は29日であったのに対して,ベクター挿入をもつ個体で成虫特異的な強制発現を行った群では,最長が34日,最短が2.5日の平均寿命を示した.変異体の中で,野生型に比べて有意に長寿命を示したものについて,強制転写産物の5'側部分配列を決定した.比較的長命であった25系統について調べたところ,3系統が既知の遺伝子,9系統がEST配列と一致し,約半数の系統は新規の遺伝子であった.既知遺伝子へ挿入されたものについては,80%の系統で転写開始点上流に挿入されており,完全長産物が発現されていることを示唆した. 本研究では,ショウジョウバエの成虫期に限定した強制発現によって寿命延長作用を有する遺伝子をスクリーニングした.その結果,野生型に比べて有意に長命となるGS系統を同定し,これらにおいて強制的に発現された遺伝子を同定した.これらの遺伝子は老化制御のための標的として有力な候補になるものと考えられる.
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