研究概要 |
葉緑体の光合成機能発現の中心的プロセスは,核あるいは葉緑体ゲノムにコードされた光合成に関わるタンパク質の協調したチラコイド移行である。われわれは最近,葉緑体内部に大腸菌型Sec依存性のチラコイド移行経路があること,この経路と△pH依存の経路は共通の膜透過チャネルを利用していないことを見出した。そこで,下記のように,部位特異的光架橋法を前駆体の包膜通過に適用し,前駆体と包膜の膜透過装置の間の相互作用をマッピングした。また△pH依存のチラコイド膜透過経路が高次構造を保ったまま基質タンパク質を膜透過させるメカニズムを解明するために,この経路の新規膜透過チャネルの同定を行った。 1.エンドウ葉緑体における△pH依存のチラコイド移行経路を解析する足がかりとして,シロイヌナズナやトウモロコシでTha4と共にこの経路に関与していることが明らかにされているHcf106遺伝子のクローニングを試みた。トウモロコシHcf106タンパク質において,他のHcf106やTha4と高いホモロジーが見られるドメインを含む50〜156アミノ酸残基領域をコードする遺伝子断片をプローブとして,エンドウcDNAのλライブラリーをスクリーニングした。この結果一つのクローンが得られ,塩基配列決定から248アミノ酸残基をコードするORFが同定された。 2.プラストシアニン前駆体を用いて単離葉緑体への輸送実験を行い,ATP濃度を下げることにより,包膜透過反応の中間体が生成することを確認した。次に光反応性のアミノ酸であるBPAをサプレッサーtRNA法により部位特異的に導入したプラストシアニン前駆体を調製した。この前駆体と単離葉緑体を用いて包膜透過反応中間体を形成させ,UV照射により架橋反応を行った。その結果,Toc/Tic構成因子との架橋産物が,各部位で低濃度ATP、UV照射特異的に検出された。
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