研究概要 |
Dsh蛋白質はWnt/Wgシグナル並びにPlanar Polarityシグナルに関わるJNK経路を仲介する多機能のシグナルトランスデューサーで、Drosophila、マウスの多くの組織に恒常的な発現が認められる。DIX、PDZドメインがWnt/Wgシグナルに必須であり、またDEPドメインがJNKシグナルに関わる。最近生物活性を保ったWnt-3a標品が使用可能となった為、Wntシグナル伝達にともなってDvl-1,2分子が示す生化学的変化の性状を、マウスやヒトの各種培養細胞を用いて解析し、Dshファミリー蛋白質の基本的機能を同定する事を試みた。まず、1)マウスNIH3T3,L,C57MG細胞を可溶性Wnt-3a蛋白で3時間処理すると、βカテニン蛋白の著しい細胞質内蓄積が観察され、さらにそれと同時にDvl-1,2分子のSer/Thrリン酸化の亢進に伴うバンドシフトが生じた。ここに初めてDshと同様に、DvlもWnt刺激によりリン酸化を受け、活性化される可能性が示された。2)Dvl-1,2分子の動物細胞での強制発現はアポトーシスを誘導した。しかしDrosophilaのclone8翅原基細胞やSchneider S2細胞では、メタロチオネイン誘導型ベクターを用いる事によってDvl-1,2分子の誘導発現をする細胞株の樹立が可能で、強制発現させるとDrosophilaのDshの場合と同様に、Arm蛋白の蓄積ならびにDE-cadherin誘導、そして、Dvl-1,2分子の高度のSer/Thrリン酸化が生じた。Dvl-1,2蛋白はclone8細胞内の主に細胞質に斑点状に局在した。3)更にDsh,及びDvl-1,2分子には、ともに免疫共沈されてくるプロテインキナーゼが存在し、そのうちの一つはPDZドメインに結合するCasein kinase IIであった。4)さらに、Dvl-1,2蛋白の強制発現はZW3によるTauリン酸化活性を阻害する事を、リン酸化型特異的抗Tau抗体を用いたIn vivo assayによって初めて明らかにした。5)またSchneider S2細胞内でのDsh,及びDvl-1,2過剰発現によるArm蛋白の蓄積はCasein kinase Iの特異的阻害剤であるCKI-7により完全に消失した。6)現在Dvl-1,2分子の強制発現によるJNK経路の活性化機構についてリン酸化型特異的Jun抗体を用いて検討中である。
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