研究概要 |
四肢パターン形成におけるWntファミリーなどの機能を理解するために,主にニワトリ肢芽を用いて以下の点を調べた。 マウス肢芽ではWnt-3aはAERで発現していないが,変わりにWnt-10aがWnt-5b,Wnt-6,Wnt-11などと共にAERで発現している。一方,ニワトリ肢芽ではWnt-3aがWnt-10a,Wnt-5aと共にAERで発現し,さらにWnt-10aは外胚葉全体でも発現している。 レトロウイルスベクターでマウスWnt-10aを肢芽先端部の間充織で発現させると軟骨形成が阻害され、特に先端部の軟骨分化が抑制された。Wnt-10aの過剰発現ではMsx-1,Fgf-10,Lef-1の発現に影響が見られなかったが,軟骨分化マーカーaggrecanの発現は顕著に抑制され,また軟骨化に先立つ間充織細胞の凝集過程で発現するFrzb-1は,初期(48時間後)には抑制されるが、後期(72時間後)では差が見られなくなる。一方,ニワトリWan-3aを肢芽間充織で過剰発現した時にはこれらの効果が全く見られないだけでなく,Lef-1の発現促進も見られなかった。この原因の1つとしてマウスWnt-3aとニワトリWnt-3aの構造上の相違があり,事実,マウスとニワトリ間でシグナルペプチドの配列が大幅に異なっていることが確認された。ツメガエル初期胚での検定で,ニワトリWnt-3aは効率よく細胞外へ分泌されない可能性が示唆された。 マウスWnt-3aはニワトリ肢芽の外胚葉で異所的に発現したとき,FGF-8の発現を誘導しAERを誘導する。この活性はWnt-10aでも認められ,Wnt-3aほど強力ではないが肢芽外胚葉で異所的なFGF-8の発現誘導が見られた。しかし,Wnt-3aは細胞質にβ-cateninを集積することができるが,Wnt-10aではβ-cateninの集積は検出されなかった。従って,Wnt-3aとWnt-10aはそれぞれβ-catenin依存性および非依存性のシグナリング経路で作用し,いずれの経路でもAERマーカーのFGF-8を誘導できることが確認された。
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