研究概要 |
完成された脳においては、異なる領域にそれぞれ異なる機能と形態を持った多様な細胞が存在する。この多様な脳細胞の発生に多くの転写制御因子が関与することが明らかになりつつあるが、その詳細は不明である。本研究では、神経系の領域特異化の最も初期の過程のひとつである背腹軸に沿ったパターン形成において、腹側特異的な細胞分化を誘導する分泌性シグナル因子Sonic hedgehog(Shh)の細胞内シグナル伝達経路の解析を行なった。その結果、Gliと呼ばれるZn-finger型転写因子がShhシグナルを受けて活性化あるいは誘導され、一群のShh応答遺伝子の発現を制御していることを明らかにした。また、哺乳動物に存在する3種類のGli因子(Gli1,Gli2,Gli3)は、Shh応答遺伝子群の発現制御において、それぞれ異なる機能を担っていることを見出した。ショウジョウバエhedgehogのシグナル伝達系においては、Gli相同分子であるCiの機能を抑制する分子として、Suppressor-of-Fused(SuFu)が同定されている。トロント大学のHui博士らとの共同研究により、哺乳動物におけるSuFu相同分子遺伝子を単離し、その機能の解析を行った。SuFuは、3種類のGli因子といずれもタンパク質レベルで直接に相互作用する分子であった。さらに、SuFuはGli1,Gli2の転写活性化の機能を抑制する作用を示した。培養細胞株において発現させたSuFuは、細胞質および核に存在し、Gli1とともに発現させると、Gli1の核への局在を阻害する作用を示した。以上の結果から、Shhの細胞内シグナル伝達においてはGli転写因子が特異的な遺伝子発現制御に主要な役割を担っていること、さらに、Gliと結合する分子であるSuFuが、Gliの核移行を阻害することによってShhシグナル伝達系を負に制御することを明らかにした。
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