研究概要 |
昨年度に引き続きエンハンサー解析をおこなった。その結果Mesp1遺伝子の上流約3.5kbに初期の中胚葉特異的なエンハンサーが、また、Mesp2の上流約150bp以内に体節における発現を制御するエンハンサーが存在していることが明らかになった。そこでまずこれらのエンハンサーがそれぞれの遺伝子に特異的に働いているものなのか、それとも両者が共通に使用しているものなのかという点を明らかにするため、それぞれのエンハンサーを含みMesp1あるいはMesp2を欠損しているマウスを作成し解析した。まず、Mesp1遺伝子およびその上流のエンハンサーを欠損したマウスに関して、その表現形を調べた結果、Mesp1遺伝子単独のノックアウト(KO)マウスに較べて非常に重篤な表現形を示した。さらにMesp2遺伝子の発現を調べてみたところ、単独のMesp1KOマウスでは、その代償として、Mesp2の発現が上昇していたが、エンハンサーを除いたマウスでは、そのような発現上昇はみられなかったものの、わずかではあるがMesp2の発現は観察された。したがって、Mesp2はMesp1と同じエンハンサーを使用しているが、我々が同定したエンハンサー以外にも、初期中胚葉に働くエンハンサーが存在する可能性が示唆された。一方、Mesp2遺伝子とともに、その上流にあり、体節形成で働くエンハンサーを欠損させたマウスは、形態的にはMesp2遺伝子単独のKOマウスと全く同じ表現形をしめした。さらにMesp1の発現は、全く正常であることから、Mesp1はMesp2と異なるエンハンサーを使用していることが明らかになった。したがって、我々が目論んでいた、エンハンサー特異的なKOマウスを作成しても体節形成過程のみにMesp1,Mesp2両遺伝子を欠損するマウスは作成できないことが明らかになった。そこで別の方法をとることにした。まず我々がすでに作成したMesp1,Mesp2ダブルKOマウスは、これら両者が欠けるために、発生初期の中胚葉の形成が正常におこらず、体節形成期以前に致死となる。そこで、今年度同定した、初期中胚葉特異的なエンハンサーを利用して、初期Mesp1を発現させることにより、初期の欠陥をレスキューできる可能性がある。現在同定している約300bpのfragmentは後期に筋肉系における異所的発現があるため、さらに短くする、あるいは長くすることにより、初期特異的なエンハンサー活性を確定し、トランスジェニックマウスの作成に使用することを考えている。
|