研究概要 |
蛋白質分泌過程の初期に関与する哺乳類シグナル認識粒子(SRP)の構成因子であるSRP RNAは、機能上4ドメイン(I〜IV)から成る特徴的な二次構造を持つ。また、これまで調べられたほぼ全ての生物においてSRP RNAは存在していることから、SRP-SR(SRP受容体)系は広く生物界に保存されている現象である。 枯草菌SRP RNAのドメインIV領域にはSRP54の相同因子であるFfhや蛋白質伸張因子EF-Gがそれぞれ独立に結合することを見いだしているが、本研究において、枯草菌SRP RNAドメインI領域に対して高い結合特異性を持つ蛋白質としてヒストン様蛋白質HBsuを同定した。HBsuに対する抗体を用いた免疫沈降実験により、HBsuとFfhはSRP RNAを介して細胞内で複合体を形成していた。この複合体の沈降系数は約8Sであった。 HBsuの蛋白質分泌系における機能を調べるため、HBsuをIPTGで発現誘導可能な条件欠損変異株を作成した。この変異株は,IPTG非存在下で培養した結果、培養開始後5〜7時間で顕著な生育阻害を示した。変異株に枯草菌アルカリプロテアーゼ(AprE)、ペニシリン結合蛋白質5^*(PBP5^*),サイクロデキストリン合成酵素(CGTase)の各種シグナル配列と大腸菌β-lactamase(Bla)との融合蛋白質の発現プラスミドを導入、発現させ、Western blottingにより前駆体の蓄積の解析を行った。HBsu非存在下において培養開始後3時間ですでに、AprE-Bla、PBP5^*-Blaの約50%が前駆体として蓄積しており、CGTase-Blaでは約10%の前駆体の蓄積が観察された。これらの結果よりHBSuはFfh、scRNAと共にSRP様粒子を構成し、一群の蛋白質の分泌に関与していることが示された。真核生物以外にも、SRP様粒子が存在することを初めて証明することができた。 今後、分泌過程におけるSRP RNAの動的な変化を解析する必要がある。
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