研究概要 |
海馬の神経細胞とくに錐体細胞は, 脳虚血などの侵害刺激に対して易傷害性を有しており, アポトーシスを起こし易い. これには, 刺激によって細胞内カルシウム濃度が上昇することが引き金になっている. ヒポカルシンは海馬錐体細胞に特徴的に高発現しているカルシウム結合タンパク質で, 樹状突起から軸索末端まで分布していることから, 伝達物質の放出, 受容体以降の伝達効率の調節, カルシウム濃度の緩衝などの作用をもつことが示唆されている. 1)老齢マウスの海馬について錐体細胞数を測定するとともにヒポカルシンの発現量の変化について検討した. 錐体細胞数は12ヶ月齢まで著変は認められなかったが, 24ヶ月齢では減少傾向が認められた. ヒポカルシンの発現量は12ヶ月齢まで維持されていたが, 24ヶ月齢では減少していた. 一方, 12ヶ月齢のヒポカルシン遺伝子欠損(-)マウスの錐体細胞数は減少傾向を示した. したがって, 昨年度の(-)マウスの興奮性アミノ酸に対して易傷害性であるという昨年度の結果とともに, ヒポカルシンは細胞内カルシウムを受容あるいは緩衝することによってアポトーシス機構の抑止に働くことが示された. 2)(-)および(+)マウスの海馬スライスを用いて内因性グルタミン酸放出量を測定し, ヒポカルシンのグルタミン酸放出調節への関与を検討した. 基礎遊離量および高カリウム刺激による放出量は, (-)では(+)に比し有意に充進していた. カルシウムフリー培地, カルシウムチャネル遮断薬, カルシウムイオノフォアなどの効果の検討をしたところ, (-)で認められた放出亢進はカルシウムに依存していた. このことから, ヒポカルシンは細胞内カルシウムを受容あるいは緩衝することによって神経終末からの伝達物質放出機構を抑制している可能性が示された.
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