研究概要 |
RasとR-Rasは,ともにセリン・トレオニンキナーゼRaf-1と結合することが報告されているが,RasだけがRaf-1のキナーゼ活性を上昇させることができる.このような機能の差違を生じさせる原因を解明する目的で,2種類の実験を平行して進めた.第一の実験としては,RasによるRaf-1活性化の分子メカニズムの解明を試みた.RasによるRaf-1の活性化においてRasの膜局在が必須であることから,本年度は膜画分にRaf-1活性化因子が存在する可能性を検討した.その結果,細胞膜にRaf-1活性化因子が存在するのではなく,Rasが脂質二重膜上に存在することがRaf-1の活性化に必要であることが明らかになった.またRasが膜上で二量体を形成していることや,人工的に二量体化させたRasは,Raf-1の活性化において膜への局在を必要としないことを示した.これらの結果から,細胞膜上でのRasの二量体化がRaf-1の活性化に重要であると考えられた.第二の実験としては,RasおよびR-Rasに存在するRaf-1活性化を促進(もしくは抑制)する領域の検索を行った.種々のRasとR-Rasのキメラ分子を作製し,これらのキメラ変異体のRaf-1活性化能を測定した.その結果,R-RasのN末端26アミノ酸残基がR-RasによるRaf-1の活性化において負の制御ドメインとして機能している可能性が示唆された.さらにN末端26アミノ酸を用いてアフィニティーカラムを作製し,これにラット脳から調製した粗抽出液を添加したところ,この26アミノ酸に特異的に結合すると思われるバンドを見い出した.
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