研究概要 |
本研究課題のもとで,これまで方法が確立していなかった金属内包C_<60>(M@C_<60>)の大量合成法および精製法を確立した.得られた金属内包C_<60>を用いて,構造と基礎的物性に関する研究を展開した.最初にEu@C_<60>とDy@C_<60>のススをそれぞれの金属酸化物とグラファイトの混合炭素棒のアーク放電により生成した.得られたススを使って,Eu@C_<60>の場合はEu内包高次フラーレンを除去するために,昇華精製した後アニリンで抽出した.一方,Dy@C_<60>では直接アニリン抽出を行った.得られたアニリン溶液を使って,アニリンを展開液とした高速液体クロマトグラフを繰り返すことにより精製されたEu@C_<60>およびDy@C_<60>を得た.精製されたEu@C_<60>とDy@C_<60>固体試料のXANESと,原子価が+3であるEu酸化物とDy酸化物のXANESを測定することにより,原子価をEuに対して+2,Dyに対して+3と決定した.決定された原子価は,Eu@C_<82>およびDy@C_<82>の原子価と一致しており,フラーレン系に共通であることがわかった.Dy@C_<60>のDy L_<III>-edge EXAFSから,Dyと第一隣接炭素(Dy-C(1))間距離が,2.39(1)Å,Dyと第二隣接炭素(Dy-C(1))間距離が2.67(3)Åであることがわかった.これより,Dy原子はC_<60>ケージの中心から1.25Åだけ五員環方向に近づいていることが明らかになった.さらにDy@C_<60>のA_g(2)ラマン散乱ピークは,1450cm^<-1>で純粋なC_<60>と比べて,19cm^<-1>だけ低波数シフトしている.これは,Dyから三個の電子が完全にC_<60>ケージ上に移動していることを示している.これらの結果は,M@C_<60>の構造を初めて実験的に明らかにしたものである.Dy@C_<60>のESRは,g=2.0050,線幅ΔH=4.5Gであり,4.0KでDy^<3+>のESRが観測されたことから,Dyからの電子の移動によって,C_<60>側にスピンが出現していることを示している.すでに,Dy@C_<60>の磁気的特性解明のために,4-300KにおいてESRと静帯磁率の温度依存性を測定しており,現在解析中である.また,Dy@C_<60>と単層カーボンナノチューブのハイブリッド系(Dy@C_<60>@SWCNT)の作成に向けた実験を実行中であり,この系の構造と物性をナノレベルで明らかにするために,低温・超高真空STMを現在立ち上げ中である.本研究課題により,M@C_<60>の基本的な特性が明らかになるとともに,M@C_<60>をベースにしたナノレベルでの新物質開発に向けての指針が明らかになった.
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