研究概要 |
まず,孤立ナノチューブとバンドルを形成した場合の電子状態,振動状態の違いを調べるために,精製やドーピングをうまく利用して,バンドルサイズの異なる試料を準備し,共鳴ラマン散乱を測定した.その結果,数十nmの太いバンドルを形成することにより,Breathingモードの振動数が5%程度高波数側へシフトすることがわかった.一方,多層ナノチューブの結果を見ると,さらに高波数側へシフトしていることがわかり,層間の相互作用が大きくなるにつれ,シフト量が増していくことがわかった.電子状態については,顕著な変化が見られないが,1次元ファンホーベ特異点に起因する状態密度ピーク間の遷移がブロードニングを示し,若干の低エネルギー側へのシフトが確認された.典型的な分子性固体の特徴であると言える.Pristine試料は,孤立チューブとバンドルの混合物であるため,これらの複合効果として,励起波長を変えるとbreathing modeが一見シフトしていくように見える.これは実際に試料に含まれるよりも多くの種類のナノチューブが存在するように見せることになる.つまり,実際には,それほど多くの種類のナノチューブがラマンで観測されているわけではないことがわかった. ドーピング効果の一環として,ナノチューブへのフラーレンドーピングを行った.ナノチューブの直径を1.37nmに調整することにより,非常に高い収率でフラーレンが内包されることを見出した.理論計算によれば,フラーレンとナノチューブ間で軌道の混成やLUMOレベルの大きなシフトも期待されることから,高収率試料は炭素の新しい固体相と考えられる.電子顕微鏡観察,X線回折,ラマン散乱から,我々の試料のフラーレン充填率は60〜70%であることがわかった.C60はナノチューブ内部で,ダイマーを形成しており,光照射やカリウムドープによりたやすく1次元ポリマーを形成することがわかった.
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