研究概要 |
本研究では,局所密度近似(LDA)の一電子波動関数を原子軌道関数と平面波の重ね合わせとして表わす効率的な第一原理計算手法である全電子混合基底法を開発し,第二周期元素および遷移金属元素を含む分子系に対する第一原理分子動力学シミュレーションを行った.この方法を用いて,C_<60>などのフラーレンやナノチューブに異種原子を高速に入射することにより,これを内包或いは置換させる可能性を調べた.本研究から,フラーレンの六員環中央を通り抜け内包させるためには.Li,Beは5eV,Xeは130eV,Krは80eV程度の入射エネルギーが必要なことが分かった.これに対してK、VやCuは通過し難いことも分かった.一方,ナノチューブの場合には,Na、Kがそれぞれ80eV,150eVで内包することも確かめられた.この研究は,安定な分子素子や擬原子(pseudoatom)の創成に繋がる.この新しいプログラムをベースにしたワークステーション・レベルの分子設計支援システムの構築すべく,本年度は小型のワークステーションを一台購入した.さらに本研究では,基底状態のみならず電子励起状態を扱うために,全電子混合基底法のプログラム改良も行った.特に,LDAから出発して,RPAの範囲でSiおよびGaAsの誘電関数のG,G',ω依存性を計算した.これは,動的にスクリーンされたクーロン相互作用の計算を可能とし,自己エネルギーの最低次項を取り入れるGW近似の導入,準粒子スペクトルの正確な計算を可能とする.また,それを越えて2電子グリーン関数に対するBethe-Salpeter方程式を解いて励起子梯子図形の無限和を取り入れることによって光吸収スペクトルを計算するプログラム開発も開始した.これが完成すると,励起状態を経由した原子ダイナミックスの制御の問題にも応用することも将来的には夢ではなくなり,従来の基底状態に制限された第一原理分子動力学法の方法論的な問題に対する突破口が開ける.
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