研究概要 |
本研究は、真性粘菌変形体Physarum polycephalum及びアメーバAmoeba proteusを対象として、外部刺激による応答すなわち個体運動へ至る過渡過程の挙動を調べ、そのダイナミクスを明らかにすることを目指してきた。粘菌変形体の環境応答では、変形体内の化学物質(ATP,Ca^<2+>)振動とこれに制御されたメカニカルな変形体糸(ゲル状糸)の収縮-弛緩振動からなる振動子系が一次元的に結合した集団系として捕らえ、力学系モデルを構築した。そして数値解析より、変形体の先端に外部刺激を与えたときの応答で特徴的な化学物質(ATP,Ca^<2+>)濃度の能動輸送により生ずる空間的シンクロナイゼーションなわち自己組織化過程を再現することを示した。これらの結果はモデル力学系で考慮されたメカニカル振動により生ずる原形質流動を通しての化学物質供給と局所的擾乱による化学反応促進をメカニカル系から化学系へのフィードバック効果、及びゾルーゲル変換が変形体内の化学物質濃度の自己組織化において本質的役割をしていることを示している。Amoeba proteusでは、無刺激の等方的環境下でランダム運動をさせ、その非線形解析を行った。運動を特徴づけるパラメータとして、アメーバ画像の面積と周囲長等の時系列解析よりn次元離散力学系を作り、相関次元が埋め込み次元に対し3,4次元に収束すること、またリアプノフ指数λが正の値を取ることが分かった。以上の結果はアメーバのランダム運動が低次元(ν<4)系のカオス的特性を持ち、一見ランダムな運動が決定論的なダイナミクスに従うシンクロナイズした運動であることを示している。
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