研究概要 |
自然界の中で最も高度な機能を有しているのは人類であるが,植物や動物からなる生物の持つ優れた機能を真似るという考えは当然の姿であろう。生体の神経-筋肉系の動作では,神経からの微弱な電気パルスが筋小胞体からカルシウムイオンの放出を促し,ATPの加水分解エネルギーを使ってアクチンとミオシンが引き合うことで筋肉が収縮すると説明されている。生体内では官能基の受けた刺激を協奏反応により増幅して巨視的挙動を制御できる機能が備わっている。従って,生体機能としての分子シンクロナイゼーションを人工的に構築することができれば,人工筋肉の実現も可能であると考える。一方,導電性高分子,高分子ゲル,イオン交換樹脂などが電気化学反応(電解)により形態変化し生体筋肉と類似の動きをすることから,この膨張・収縮を直接,屈曲や回転などの運動に変換できれば人工筋肉やマイクロマシーンなどへの応用が期待されることから,これら駆動体の動作機構解明にも興味が持たれている。 電解重合法により作製した円筒状ポリピロール(PPy)は,モルフォロジーの違い,導電率の異方性から,分子凝集状態やモルフォロジーなどの違いにより厚さ方向に密度勾配が形成され,ある種の傾斜機能材料が形成されていることを見出すと供に,電気化学的酸化還元反応により一方向のみに湾曲する駆動素子への応用を提案した。PPy駆動素子の動作特性を各種電解質を用いて詳細に調べた結果,PPy体積内へアニオンではなくカチオンが出入することにより湾曲するが,カチオンの大きさも湾曲と密接に関係している。更に,PPy体積内でのカチオンの濃度分布が原因して発生応力も分布し,異方性湾曲を示す。筆者らは,外部刺激に対して協奏的に発生した反応現象を経由して湾曲する異方性分子シンクロ駆動素子の実現を目指している。PPy駆動素子の湾曲は,カチオンの大きさ依存性があり半径約4Å以上になると湾曲は認められない。同図に示すように,湾曲の認められるカチオン半径が4Å以下のNa+,TMA+およびPy+を用いた場合,初期過渡応答電流は拡散律則に従わず緩やかな時間変化を示し,数秒後に拡散律則電流が観測され,2成分からなっている。一方,カチオン半径が4Å以上では観測した過渡応答電流は拡散律則に従っており。このことから,PPy駆動素子の湾曲にはカチオンの拡散は関与せず湾曲を引き起こす電流成分がある。 筆者らは,シス-トランス光異性化を示すアゾベンゼン基を側鎖に有するポリ(p-フェニレンビニレン),誘導体,poly(2-methoxy,5-(4-phenylazophenyl-4ユ-(1,10-dioxydecane))-pユ-phenylen vinylene),MPA-10-PPVを合成し,その光応答特性について調べている。現在,光照射による吸収スペクトルの変化は認められるが,主鎖に剛直な共役二重結合を有しているため,光により膨張あるいは収縮を引き起こすことはできていない。
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