研究概要 |
本研究では、キノコ体の神経回路構築を解析することを目的として,ショウジョウバエのキノコ体傘部への入力ニューロンを免疫組織化学法で検索し,さらに入力ニューロンとケニオン細胞とのシナプス結合関係を免疫電顕法により調べ、次の結果を得た。 1.免疫組織化学:傘部には,ChAT抗体およびVAChT抗体で強く染色される多数の顆粒状構造が,ルーズに4つの集団を形成して分布する。GABA抗体では,α葉先端部および前大脳側葉から,傘部に投射する抗体陽性繊維に加え,傘部周辺部に顆粒状の構造,さらに傘部内側部に多数の微小顆粒が染色された。タウリン抗体では,ケニオン細胞の陽性反応に由来する染色部が傘部全域にみられるとともに,内側触角脳経路を走向する繊維の一部にも染色がみられた。これらの結果から,傘部には,ChAT陽性およびタウリン陽性の繊維が触角葉から傘部に入力し,さらに抑制性ニューロンとしてGABA陽性繊維も入力していると考えられる。 2.微細構造:触角葉からニューロンは傘部内で分枝し,多数のシナプス小胞を含む大型シナプス小頭(SN;直径1〜3μm)を形成する。SNは,ケニオン細胞の樹状突起と考えられる多数の細繊維(直径100〜300nm)に取り囲まれ,糸球体様の単位構造を形成している。SNはChAT抗体およびVAChT抗体に陽性で,SNを取り囲む多数の繊維に対してシナプス前終末となっている。GABA抗体陽性繊維は,糸球体構造を構成する細繊維群や傘部周辺部を構成する軸索群のなかに散見された。これらの観察から,傘部には,触角葉から入力するコリン作動性ニューロンの終末部をコアとする糸球体様の単位構造が多数分布し,その単位構造内で少なくとも異なる3種類のニューロンが相互作用しているものと考えられる。傘部には大型有芯小胞を含む軸索もみられ,アミンあるいはペプチドを含む修飾ニューロンの投射も考えられる。
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