研究概要 |
チトクロムc酸化酵素(CcO)はミトコンドリアの電子伝達系にあり,分子状酸素を活性化してこれを水にまで還元する.この反応に共役して水素イオンが能動輸送される.最近X線結晶構造解析により,原子レベルの分解能の立体構造が明らかにされ,反応機構を分子科学的に解明する基礎が築かれた.休止酸化型と完全還元型の結晶構造を比べると,アスパラギン酸51(D51)の位置が異なる点が目立つ.すなわち,酸化型でサブユニットIの分子表面より内部に埋もれているD51が還元型では分子表面に移動しており,これが水素イオン能動輸送に深く関わっている可能性が指摘されている.伝達される電子の数と輸送される水素イオンの数の比(H^+/e^-比)はおよそ1であり,これは金属中心の酸化還元に伴うわずかな構造変化がタンパク構造の変化を引き起こし,それが引き金になって水素イオンが輸送されることを意味するが,その実体は不明である.一方,酸素分子の還元反応についてはおもに共鳴ラマン分光法により詳しく調べられてきた.つぎに各反応中間体におけるヘムおよびその近傍の構造を詳しく調べ,どのような構造変化がポンプの引き金になるかをはっきりさせることが重要である.その第一歩として,2つのヘムのラマン線を完全に分離して観測することが大切である.そこで,本研究では偏光共鳴ラマンスペクトルを測定し,2つのヘムの振動モードの分離を試みた.まず,顕微ラマン測定の光学系を組み立てた.結晶の大きさは0.3×0.3×0.05mm程度であり,これに対して励起レーザー光を直径約20μmに集光した.励起波長を457.9nmとし励起光の偏光方向を45度ずつ変えて共鳴ラマンスペクトルを測定した.ヘムの配位数を敏感に反映する振動モード(ν_3)の強度は偏光方向依存性を示した.5配位のヘムと6配位のヘムの振動モードを分離して観測できる見通しが着いた.
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