研究概要 |
本研究は,これまで手掛けてきた網膜の数理モデルと,色覚の計算論モデルの発展・統合を進め,網膜から視覚中枢に至る視覚情報処理過程の統合的な数理モデルへと発展させる事を目的とした.これまでの研究により,網膜を構成する5種類の細胞のうち,視細胞,水平細胞,双極細胞,神経節細胞の数理モデルは完成している.本年度は,視覚中枢と網膜モデルの統合へ向け,明暗情報を伝達するとされる杆体系の主経路であるON型杆体双極細胞の数理モデルを構築し,光応答に対する樹状突起,細胞体,シナプス終末のイオン機構の影響について計算機シミュレーションにより解析した。その結果,通常,細胞体で観測される光応答は,シナプス終末部位のイオン機構やアマクリン細胞入力に強く影響を受けることを明らかにした。このことは,双極細胞が単純に3次ニューロンへと情報を伝達するのみならず、細胞体-シナプス終末の相互作用によって双極細胞内で情報が修飾されることを示唆する新しい知見である.色覚モデルに関しては,色の視覚探索における探索精度に関する視覚実験,および初期視覚における色の情報表現に関する数理モデルの構築を行った.網膜出力における色情報表現は,これまでの生理・心理物理学的知見により,明るさ成分と2つの反対色成分から成るが,高次視覚野では,より多様な表現形態を取り,最近の知見では第一次視覚野で既に反対色的な表現とは異なる表現の存在が指摘されている.そこで,従来の反対色表現および多色表現に基づく視覚探索モデルを構築し,シミュレーションを行い解析した結果,多色的な色表現の存在が示唆された.
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