研究課題/領域番号 |
11215209
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研究種目 |
特定領域研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
那須 奎一郎 高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (90114595)
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研究分担者 |
富田 憲一 高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助手 (70290848)
岩野 薫 高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助手 (10211765)
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研究期間 (年度) |
1999 – 2001
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研究課題ステータス |
完了 (2001年度)
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配分額 *注記 |
28,500千円 (直接経費: 28,500千円)
2001年度: 8,500千円 (直接経費: 8,500千円)
2000年度: 2,900千円 (直接経費: 2,900千円)
1999年度: 17,100千円 (直接経費: 17,100千円)
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キーワード | 光誘起相転移 / 光励起 / 緩和 / 熱相転移との相違 / 光励起状態 / 秩序形成 / 多重安定性 / 自己増殖 / 熱相転移との相異 / 初期状態敏感性 |
研究概要 |
絶縁体結晶に僅か数個の可視光を照射しただけで、構成原子や電子の間に照射前とは全く異なる新しい秩序が成長し、照射部分だけ構造が変化し、光学的・磁気的・電気的特性も変わり、最終的には巨視的規模にまで達する光励起状態のドメインが出現する。このような不思議な現象が最近相次いで幾つかの絶縁体結晶で発見されている。これら一群の現象は総称して光誘起相転移と呼ぶ事が出来る。本研究では、幾つかの典型物質を対象にして、この光誘起相転移が、(I)如何なる条件下で起きるか、(II)如何なる動力学的機構を通して起きるか、(III)如何に通常の熱的相転移と相違するか、に付いて、理論的な研究を行った。就中、僅か数個の光照射と云う微視的過程から出発したにも拘らず、エネルギーの緩和と散逸を経るにつれ巨視的規模にまで成長すると云う、励起ドメインの自己増殖と秩序形成の動力学を、この転移の前駆現象も含めて詳しい研究を行った。本研究に登場した研究対象の物質は、有機電荷移動錯体、種々の金属錯体、マンガン系磁性化合物、無機半導体、ポリマー、等々である。具体的な研究主題には色々ありますが、主なものは以下の通りです。1)TTF-CAにおける光誘起構造相転移の動力学と初期条件敏感性、2)光誘起相転移と熱相転移との相違、励起状態のみに起きる対称性の破綻。 この中で、紙面の都合上、2)のみに限定し、詳しく報告いたします。通常の我々の物性物理学的研究は、対象となる物質が、如何なる性質を有するかを明らかにする学問である。しかし、如何なる性質を有するかと云う問いは、通常は、対象となる物質が温度と圧力の変化で如何に変化するかと云う対象物質の熱平衡状態のみに殆んど限定されています。ところが、京大理学部の田中等は、鉄ピコリル・アミン錯体結晶に関する光誘起相転移に関する極く最近の研究で、驚くべき結果を発見した。低温で光照射する事によりこの物質中に現れる巨視的光誘起相は、この物質の温度や圧力を変えて得られる如何なる熱平衡相にも存在しない、巨視的対称性の破綻を有する事が判明したのである。物質科学において、この結果は、極めて画期的で重要な意味を持っていると云えよう。何故なら、光で誘起される非平衡状態は、どの熱平衡状態にも現れない、対象物質の隠された可能性を、引き出し得る事が立証されたからである。 この状況に鑑み、那須は、拡張Peierls-Hubbard Modelを用いて、このモデル系の高温金属相、低温電荷密度波相、光誘起スピン密度波相を平均場と断熱近似で計算し、スピン密度波型対称性の破綻は、このモデル系の如何なる熱平衡相にも現れえず、光誘起非平衡相のみ現れる事を立証した。この方法論が、物質探索の一般論として完成されれば、物質を変えずに新しい状態を実現できる事になり、その影響は極めて大きいと思われる。
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