研究課題
基盤研究(B)
ニュートリノ質量の存在を示唆するニュートリノ振動現象を確実に研究するために、加速器を使用したニュートリノ実験を行なう必要が生じてきた。加速器を用いて、陽子束・金属ターゲット・崩壊領域を制御するだけでも、格段に実験の信頼度を向上させることができるが、それでも二次π粒子の生成断面積の不定性が残る。この不定性すらも払拭するためには、生成されたニュートリノビーム自身の特性を生成と同時に実時間モニターする必要があり、またこれが実現されれば、実験としては完壁なものとなる。本研究では、このニュートリノビームの実時間特性測定を目指し実現した。ニュートリノ自身は電荷も持たず、又、相互作用も非常に弱いため測定が困難である。そこで、1つのπ粒子から1つのニュートリノと1つのμ粒子が生成されるという一対一の対応関係が存在することを利用して、以下に述べる測定を行なうことによって、ニュートリノの情報を完全に実時間測定することを可能とした。1 ニュートリノの親粒子であり、陽子・金属ターゲット衝突から生成される二次π粒子のエネルギー分布・方向分布の情報を完全に測定する。2 ニュートリノが生成されると同時に生成されるμ粒子のエネルギー分布・方向分布の情報を完全に測定する。本研究では、項目1の測定を実現するために、エネルギー弁別型チェレンコフ測定器の原理を採用した測定器を実際に製作した。この方法は世界で始めての試みであり、この手法を確立することによって、世界で行なわれるニュートリノ実験に対して大きな影響を与えた。項目2の測定に関しては、従来から素粒子実験に広く利用されている電離箱を用いた測定器を用意し、μ粒子の方向分布の情報のみ測定し、項目1の測定を補助する役割にあてた。両測定器は、平成11年初めから稼働を開始した高エネルギー加速器研究機構ニュートリノビームラインに設置され、このビームラインで生成されたニュートリノビームの特性を確定した。この研究の成果により、ニュートリノに関する実験結果の信頼性が格段に向上し、未知なる高エネルギー領域の理解へ向けて一石を投ずることとなった。
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