研究概要 |
金属の量子点接触における量子化コンダクタンスは,Auを始めとする比較的軟らかい金属で顕著に観測されることが知られている.しかし電極金属の力学的な特性が量子化コンダクタンスにどのような影響を与えているかについては,これまで系統的な研究が行われていなかった.本研究は量子化コンダクタンスの発現と金属の硬さとの関係を実験的に解明することを目的として,平成11〜12年度に亘って行われた.得られた主な結果は以下の通りである. 1.Pd,Pt.Rh,Ru,Irの5種類の遷移金属のコンダクタンスは,何れもAuのような明瞭な量子化を示さない.しかしコンダクタンスの特性は金属による相違があり,コンダクタンス量子化の「程度」と金属の硬さには弱い相関が在ることが明らかになった. 2.最も軟らかい金属である液体のHgも,明瞭な量子化コンダクタンスを示さない.Hgの場合には,コンダクタンスの特性が接点を開く速度の遅速に依存していることが判明した.接点が速く開くリレー接点では観測されないコンダクタンスの量子化プラトーも,動作の遅い機械式接点の場合には頻度は少ないながら明瞭に観測される. 3.合金化は標準的な金属の強化手法であるが,合金化が量子化コンダクタンスに与える影響を調べるために,様々な組成のAuPd合金について実験を行った.コンダクタンスの特性は,ほぼ合金組成に応じてAuの特性からPdの特性へと徐々に変化して行く.即ちAuの量子化コンダクタンスピークはPd組成の増加とともに減少し,Pd組成の高い合金ではヒストグラムに明確なピークは観測されなくなる.今回の実験から,Auの量子化コンダクタンスピークの位置は合金化による影響を受けず,ピークシフトは殆ど見られないことが明らかになった.このことは溶質原子による電子散乱が,ピークシフトを与える程度より更に大きいことを示唆している.
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