研究概要 |
強いスピンフラストレーションを持つ系としてパイロクロア型Mo酸化物R_2Mo_2O_7(R=Y, Er-Nd)を取り上げ,金属-絶縁体転移近傍にあるこの系における電子相関の役割の解明を目指してきた。本研究により得られた主な成果は以下の通りである。 1.補助金により購入したフローティングゾーン方式の赤外線加熱単結晶育成装置を用いて,R_2Mo_2O_7(R=Y, Nd-Er)および置換系(Sm_<1-x>Tb_x)_2Mo_2O_7の単結晶試料の育成に成功した。 2.格子定数の小さいR=Y, Tb-Erの系は,スピングラス様な半導体であることが明らかとなった。電気抵抗は熱活性型のρ=ρ_0exp(Eg/kT)式に従い,Egは格子定数とともに単調減少する。特に,R=Tbの系において,スピングラスで特徴的に見られる転移点での非線型帯磁率の発散を観測した。さらにY_2Mo_2O_7において,ベクトルスピングラスで予言される磁場中相境界線AT-lineおよびGT-lineの存在を観測した。 3.格子定数の大きいR=Nd-Gdの系は,金属的であることが明らかとなった。電気抵抗の金属的な挙動は単結晶試料を用いることで初めて観測された。金属-絶縁体の相境界近傍に位置するGd_2Mo_2O_7では,幾つかの特異な振舞いが見られた。電気抵抗は,モット転移近傍の系でしばしば見られるように室温付近で飽和する傾向を示し,比熱には,Sm_2Mo_2O_7で明瞭に見られた転移点付近の異常が観測されなかった。 4.置換系試料(Sm_<1-x>Tb_x)_2Mo_2O_7においては,xの変化に伴って磁性と電気伝導特性が系統的に変化し,x=0.75辺りを境界として強磁性金属からスピングラス様絶縁体へ移行することを見出した。また,相境界近傍にあるx=0.75の試料について,加圧(<1GPa)とともに直流磁化の値が減少する一方で,電気抵抗は逆により金属的になるという,格子定数の変化のみでは説明の付かない興味深い結果を得た。今後さらに高い圧力下での磁気的・電気的特性の変化の追跡と構造解析を行い,強磁性金属相の起源を解明したい。
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