研究概要 |
プラスチドDNAの機能的単位であるプラスチド核様体は,原核タイプのDNAと真核タイプのDNA結合タンパク質からなるハイブリッドと見なすことができる。この観点から,プラスチド核様体構成成分の構造を明らかにし,また,それらの成分がプラスチドDNAの複製・転写に果たす役割を解明することにより,新しいプラスチド像を作り上げることを目的として研究を行った。2000年暮れにシロイヌナズナの全ゲノム塩基配列が公開され,植物がもつすべての遺伝情報が一通り明らかになることによって,これまで,ひょっとすると存在するのかもしれないと思われていた様々な遺伝子が実際には存在しないことが確定した。ゲノム決定の最大の利点は,様々な未知遺伝子がわかることだけではなく,存在しない遺伝子が確定することである。プラスチド核様体を構成するタンパク質は,プラスチドゲノムを機能させる装置という意味で,「ゲノム装置」と名付けることができる。プラスチドゲノムの起源が,シアノバクテリアの祖先種のゲノムであることに異論はないが,ゲノム装置の起源は必ずしもシアノバクテリアのDNA結合タンパク質であるとは限らない。むしろシアノバクテリアに存在するDNA結合タンパク質は,そのホモローグをシロイヌナズナに見いだすことはきわめて希であるといわざるをえない。逆に,陸上植物の葉緑体に存在するゲノム装置構成成分は,陸上植物の進化の過程で新たに獲得されたものであり,真核ゲノムにコードされた様々なタンパク質を再利用することによって生じたものである。本研究を通じて明らかになり始めた事実は,プラスチドの進化を考える全く新しい原理を導入することにつながった。それは,「プラスチドゲノム装置の不連続進化仮説」であり,本研究に引き続く基盤研究においてさらに新しい観点から研究を展開することとなった。
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