研究概要 |
細胞運動の多くは,モーター蛋白質が起こす滑り運動を原動力とする.滑り運動は,化学エネルギーを機械的エネルギーに変換することにより起こるが,このときモーター蛋白質がどのように力を発生し,力発生がどのように制御される結果,細胞の運動につながるかについては明らかにされていない.本研究では,ウニ精子鞭毛におけるダイニンに着目し,その分子レベルの機能を,制御機構との関連のもとに解明することを目指した.具体的には,1)1本のダブレット上に並ぶダイニン間の活性の協調性と独立性,2)軸糸内の複数のダブレット上のダイニンの活性が中心小管を介して実際にどのように制御されているのかを明らかにすることを目指した.その結果,2)については,中心小管を含むダブレットの太い束と含まない細い束に別れるような滑りは中心小管の存在によるダイニンの活性の制御を反映していることから,中心小管による制御は軸糸の特定の部位のダイニンの活性を決め,それ以外の部位では,ATP濃度と微小管の屈曲を介して制御されていることが示唆された.1)については,細い束または太い束に屈曲を与えると両者の重なり部分のダイニンの活性状態が変化し,滑り速度が上昇したり,滑りを起こしていないダイニンが活性化されることから,ダブレット上に並んだダイニン間で協調的な活性の変化が起こっていると推測される.また,1分子の力計測から,力発生途中にステージの振動を与えると,ダブレット微小管の振動と同期した力の振動が誘導されること,力の振動方向は時にステージの振動と異なることから,ダイニン分子の活性が相互作用をする微小管とダイニンとの間に与えられる変位により制御されることが示唆された.
|