研究概要 |
本研究では,超短パルス光によるナノ微小領域への近接場の局在化と極微細加工への応用を目指して,SNOM(Scanning Near-field Optical Microscope)システムのハードウェア及びソフトウェアの開発を行った.以下に主な事項を示す. 従来の光学顕微鏡の横分解能はレンズ系で結像させている限り光の回折限界に制限され,波長の2分の1程度が限界である.しかし,SNOMでは近接場領域内での光の特別な振るまいを利用しているので,回折限界を超える空間分解能が可能となる.また,近接場領域内での光の振るまいを明らかにすることによって,より高い空間分解能をもつプローブの設計が可能になる. 我々が開発しているSNOMでは,基板上に設けた微小突起をプローブとしているので,上の2つの条件を両立させることが可能である.さらに基板を透明体とし,斜入射照明することで限外顕微鏡の原理を最大限活用しており,試料表面を光学顕微鏡で直接観察することができ,測定したい部分をプローブ位置に持ってくることが可能である. 近接場を高感度・高空間分解能で検出するためのプローブの性状について検討し,開発中のSNOMのプローブ部を,三次元境界要素法によるモデル化・数値解析した結果,理想のプローブ形状についての指針を得た.プローブからの散乱光は横方向に広がっていることがわかった.また,試料をプローブに近づけていった際に現れる近接場の立ち上がりのグラフは実験結果とよく一致していた.さらに,より高い空間分解能をえるためのプローブ形状についても検討している. プローブと試料の材質の組み合わせについて散乱光強度を実験的,数値的に検討した結果,プローブと試料の比電気感受率の差が大きいほど検出光強度の変化が激しいことがわかった.具体的にはプローブを誘電体,試料を金属にし,またプローブを共振球を用いたものにするとS/Nよく散乱光を検出できると思われる. 走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)の装置の設計・開発においては,下記の項目が実施できた. プローブ保持部→XY移動可 試料ステージ→傾き補正可 インチワーム駆動電源→高速応答,低リプルノイズ AD, DA, DI0ボード→高速応答,高分解能 計測・制御ソフト→操作性・開発性の飛躍的な向上 この結果,SNOMシステムは試料ステージの走査処理の簡単に出来,PMT信号,Zピエゾ伸縮電圧によるソフトウェアによるフィードバック制御が可能となった. この装置を用いた試料走査テストとして,5μmのポリスチレン微粒子プローブによる回折格子表面の走査を実施した.テスト結果より,往復走査による再現性の確認とサブμmオーダーの空間分解能の確認できた. そこで,フェムト秒レーザーによる多光子吸収過程を利用した,より小さな微小突起プローブの試作を紫外線硬化性樹脂により行なった.集光スポット程度の微細加工物は実現できたが,シミュレーション結果で明らかとなった,nmオーダーの高空間分解を実現できる極微細形状の実現には至らず,今後の研究課題と考えている.
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