研究概要 |
近年,機械工学で扱われる現象はミクロ領域に及んでいる.破壊力学の分野では,従来,十分に小さいとして取り扱ってきた微小き裂・欠陥の詳細な解析が重要性を増してきている.また,進歩目覚しい半導体プロセス技術を用いれば,このような微小な欠陥を制御された形状で作成することも可能となり,旧来の偶発的な欠陥による受動的な破壊評価ではなく,能動的な評価が可能になると考えられる.本研究の目的は,制御された形状の微小き裂を用いた破壊試験法の確立にある.具体的には、半導体プロセス技術を用いた制御された微小き裂の作成手法と,導入した微小き裂に起因する強度劣化の測定手法についての検討を行った。き裂創生法としては種々の方法を検討した結果、試験片には単結晶シリコンを用い、タンタル(Ta)をマスク材としICPエッチングすることが有効であることが明らかとなった。この結果、幅約20〓、深さ約45〓のき裂(溝構造)を作成した。作成した試験片に対し,微小荷重三点曲げ試験を行い破壊応力のデータを取得した。結果、溝構造を作成することにより曲げ応力で230MPa程度の強度劣化が見られた。有限要素法の評価により、作成した溝構造の応力集中は5倍程度と考えられ、この結果より、局所破壊応力は約920MPaと推定され、溝がない場合の破壊応力値である約300MPaを上回った。シリコンは脆性材料であるため、強度のバラツキの評価をワイブルプロットで行なった。ワイブル分布を使い、溝構造なしの試験片を基準に強度の寸法効果についての考察を行なった。溝底部は、試験片の切断面と比較して面積が小さいため、4倍程度の強度上昇が生じると考えられる。しかし、寸法効果だけでは強度劣化のすべてを説明できず、ミクロ構造特有の効果が存在すると考えられ、今後の課題として残された。
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