研究概要 |
火星地表面上で探査を行う機器を想定し,火星地表面における環境下での機器の潤滑性能向上を目的とし,火星地表面上の大気,温度などを模した条件下での各種潤滑剤の性能に与える各種影響因子の把握とその解析を行うことを目的とした摩擦試験機を試作した. 初年度は.高真空下での摩擦試験が可能な試験機の試作を行った.試験機の性能を以下に示す. 1.到達真空度:10^<-5>Pa(液体窒素トラップ不使用時)10^<-7>Pa(液体窒素トラップ使用時) 2.四重極質量分析器を装備させ,容器内の残留気体の分析可能. 3.気体微量導入用のバルブを真空容器に装備させた. 4.ピン-ディスク型摩擦試験機を真空容器内に組み込み,摩擦,摩耗の測定が可能. 5.試験油の温度を室温から-100℃程度まで可変. 第2年度は,初年度に作製した上記試験機を用いて,主に高真空度と低温度条件に着目し摩擦試験を行った.材料潤滑剤には液体潤滑剤を選定した.液体潤滑剤は我が国ではまだ大きな実績は無いが高性能,高信頼性.長寿命を要求される将来の宇宙機器においては不可欠なものであるが,我が国での研究はほとんど皆無であり,データ収集が望まれているものである.本研究では液体潤滑剤として,パーフルオロポリエーテル(PFPE)3種(Fomblin-Z,Barrierta.Demnum),合成炭化水素油1種(Pennzane)を用いた真空・室温条件下における摩擦試験では4種の潤滑油は安定した摩擦を示し大きな違いは見られなかった.室温から-70℃程度まで徐々に冷却して行く試験においては.室温では0.1程度の摩擦を示し安定した潤滑性を示す4種全ての試料油も,摩擦をさせながら試験温度を経時的に低下させていくとある温度以下で摩擦係数の急激な上昇を示し焼付き状態のような状況となった. 高摩擦状態を呈する温度の序列はPFPE-B>PFPE-F>PFPE-D>Pennzaneの順であり,Pennzaneは-70℃まで比較的摩擦が低く安定な潤滑状態を保っていた.試験後の摩耗痕の大きさは全て同様な値であったが,3種のPFPEは全てきれいな円形の摩耗痕で化学摩耗状態であったが,Pennzaneでは比較的大きな摩耗傷が多数存在し,表面損傷の程度は大きかった.真空・低温下での実験は,真空度到達までの時間と,試験終了後温度を常温に戻し真空を開放するまでの所要時間が非常にかかり予想外に満足の行くデータ収集ができなかった.今後も継続してデータ収集を続ける.
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