研究概要 |
電気自動車は従来のガソリン車にはない大きな可能性をもっている。一つは,電気モータの高速トルク応答をいかしたトラクション制御であり,いま一つは,複数輪独立駆動による高度な車両姿勢制御である。 前者については,新しい増粘着制御手法を提案し,東大三月号Iという実車を製作して実験を行い成果を得てきた。本研究では後者に重点を移し,4輪独立駆動車東大三月号IIを製作し,2次元的な車両姿勢制御に取り組み下記の成果を得た。 (1)増粘着制御 実際に増粘着制御を行っている量気鉄道,自動車のABS,タイヤの摩擦力や転がり抵抗の発生機構について調査した。モデルフォロイング制御,最適スリップ率制御などを考案しているが,その挙動をさらに解明し,制御定数の最適化を行った。 (2)路面状態推定 増粘着制御に必要となる路面状態推定器として,駆動カオブザーバを提案,スリップ率と路面摩擦係数の時間変化量とから路面摩擦関数の傾きを推定する固定トレース法をはじめ,詳細なタイヤモデルと非線形探索法を応用した最大摩擦係数推定,車速を用いない空転検出法などの新しい手法を開発した。 (3)2次元車両運動制御 車体のダイナミクスを記述する非線形状態方程式を用い,諸種の姿勢安定化制御法を開発した。たとえば,制駆動力の飽和に着目したヨーレート制御のアンチワインドアップ化,緊急制動時の制駆動力最大化制御と運転者の操舵が伴う場合のスピンを防止への応用,動的駆動力配分制御(横力を推定しながらタイヤの制駆動力を分担)などの手法を開発した。4輪独立駆動車ではヨーレート力そのものが制御入力とできるので,従来の4WDや4WSとは本質的に異なる新しい制御系を構築することができる。 (4〉実車製作と計測系整備,実験 東大三月号IIは,まったくの手作りであるためひとことでは言い表せない苦労をしたが,とにかく完成,測定機器類を整備し,あるタイヤメーカのテストコースに運び込んで実験を続けている。今後研究成果は山のように出るであろう。 以上述べた一連の技術開発が広く適用されれば,スリップ等の危険性が格段に少なくなり,すべりやすい路面でも高度な姿勢制御によって運転の安全性向上がはかれ,また,より損失の少ないタイヤを用いれば一充電走行距離は飛躍的に伸びる。本研究の意義は,このような制御面における電気自動車の優位性を引き出す基本実験に成功した点にあると言える。
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