研究概要 |
本研究では,輸送力増強などの供給者側の施策や,フレックスタイム制の普及;生産年齢人口減少などの社会環境の変化が,通勤鉄道の混雑緩和にどの程度寄与するのかを定量的に把握するために,「鉄道需要の時刻集中特性予測モデル」を構築した.このモデルは,鉄道輸送力,フレックスタイム制適用率など勤務制度に関するデータと駅間OD表を入力として,時空間鉄道ネットワーク上に利用者を配分することにより,時刻別・距離帯別の乗降人員,断面通過人員などを算出するモデルである.このモデルは,混雑による外部効果や勤務制度に関わる変数を明示的に取り込んでいるという特長をもっている. 本モデルを首都圏の鉄道ネットワークに適用した結果,概ね良好な現状再現性を得ることができた.また,その際に棚密な鉄道ネットワークを一次元化することにより,高い操作性も確保できた. また,シナリオ分析の結果,現在事業中の路線がすべて完成し,かつ需要動向を最も楽観的に想定したとしても,「ピーク時の平均混雑率 150%」という長期目標を達成するのは困難であり,ピーク時の混雑緩和実現のためにはさらなる新規整備が必要であろうことが示された.実際,2000年2月の運輸政策審議会答申18号でも,将来の東京圏の都市鉄道網について,既設線の有効活用と同時に,一定程度の新たな路線整備が示されているが,こうした政策動向は,本研究で得られた試算結果と整合したものとなっている.無論,こうしたモデルによる評価・予測には限界があり,またこの長期目標値が社会的に最適な水準であるか否かについても更なる議論が必要ではあろうが,今後の鉄道政策を考えていく上でのひとつの有用な示唆が得られたと言える.
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