研究概要 |
まず,市販の膜型培養器を用い,モデル小腸膜(ヒト大腸ガン由来Caco-2細胞)とモデル標的臓器細胞(ヒト正常二倍体線維芽細胞TIG-1)からなる簡便な静置型二層培養システムを開発した.4つのモデル化学物質について,TIG-1細胞増殖阻害で定義されるED50値は,二層培養では単層培養(Caco-2膜無し)と比較して,経口吸収率を反映して高濃度側に変化し,Caco-2膜を導入することで,毒性発現における経口吸収率の補正を行うことができ,in vivo毒性の予測性が向上することが確認できた(AATEX誌掲載).この検討で,ある化合物については,in vivoの小腸で近年報告されているような,代謝と極性輸送(体外側への選択的排出)が間接的に観測された. そこで,体内解毒酵素として有名なチトクロ.ムP450によって代謝活性化を受け強力な発ガン物質への変化する事が知られているBenzo[a]pyreneをモデル化学物質として用い,標的臓器細胞としてTIG-1の代りに肝臓ガン由来のHep G2細胞を用いて同様の検討を行った.すると,Caco-2細胞にもHep G2に劣らないチトクロ.ムP450活性が観測され,しかもそれはBanzo[a]pyreneによって強力に誘導された.さらに,また,Benzo[a]pyreneの代謝によって生じる毒性物質は,主としてCaco-2膜の上側にのみ現れ,下側(体内側)には,1/10以下しか出現しなかった.このように人体内外のバリア.として働く細胞と臓器細胞とを適切に組み合わせ,in vitro培養系として使用することで,小腸での代謝・極性輸送,肝臓での代謝といったin vivoで見られる極めて複雑な過程を,ある程度再現可能であることが示された(第14回日本動物実験代替法学会ゴ.ルデンプレゼンテ.ション賞受賞,投稿準備中). さらに,小腸と肝臓・その他臓器からなる灌流培養システムを製作し,モデル化学物質として,小腸でその大部分が吸収され,肝臓での代謝活性化を受け,肝特異的な毒性を発現するアセトエミノフェンを用いて,検討を行った(動物細胞工学ハンドブック掲載).その結果,Caco-2膜を導入したシステムの方が,Caco-2膜無しのシステムに比べて,毒性が早く強力に発現するという興味深い結果となった.この原因を探るために,アセトエミノフェンの代謝活性化に最も深く関与するチトクロ.ムP450 3Aの活性を,両細胞について測定したところ,Caco-2膜に非常に高い活性が測定され,これが強力にアセトエミノフェンの代謝活性化を行ったために,上述の結果となったと推察された. この系では,高密度培養を用いたが,各コンパ.トメント内を攪拌していなかったために,細胞活性の維持が3日程度が限界であった.そこで,システム全体を旋回攪拌する新規システムを開発し,Benzo[a]pyreneをモデル物質として,検討を進めている.
|