研究概要 |
キラルルイス酸触媒を用いた立体選択的反応の未解決問題の一つは、強配位性求核剤に対して高い耐久性を示すキラルルイス酸触媒の開発と、これを用いたエナンチオ選択的反応である。そこで、独自に開発した2種の耐性キラルルイス酸触媒(4,6-Dibenzofurandiyl-2,2'-bis(4-phenyloxazoline)(R,R-DBFOX/Ph)の各種金属錯体触媒およびIsopropylidene-2,2'-bis[4-(o-hydroxybenzyl)oxazoline](R,R-BOX/o-HOBn)の銅(II)錯体触媒)を用いて、O-ベンジルヒドロキシルアミン、マロノニトリル、環状ジケトンのエナンチオ選択的共役付加反応を研究し、以下の成果を得た。 (1)ヒドロキシルアミン類のエナンチオ選択的共役付加反応: R,R-BOX/o-HOBnの銅(II)錯体が、耐性ルイス酸触媒としてO-ベンジルヒドロキシルアミンの共役付加反応の有効な触媒として働くことを見い出した。アクセプター基質としては1-クロトノイル-3-イソプロピル-2-イミダゾリジノンが優れていて、希薄溶液中(0.03M)-40℃で反応を行うと、最高97%eeのエナンチオ選択性を達成することができた。アクセプター基質の一般性も観察されたので、この反応はβ-アミノ酸のエナンチオマー合成法として有用である。 (2)マロノニトリルのエナンチオ選択的ミカエル付加反応: R,R-DBFOX/Phのニッケル(II)アクア錯体触媒で活性化させた3-クロトノイル-2-オキサゾリジノンに、やはり触媒量の2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(TMP)で活性化させたマロノニトリルを作用させると、最高94%eeのエナンチオ選択性で相当するミカエル付加体が生成する。この反応は、ルイス酸触媒とルイス塩基触媒でそれぞれアクセプター基質とドナー基質を別々に活性化する2重活性化による触媒的不斉ミカエル付加反応の初めての成功例である。 (3)エナンチオ選択的シクロブタノン生成反応: R,R-DBFOX/Phのニッケル(II)アクア錯体触媒で活性化させた1-クロトノイルピラゾールに、やはり触媒量の2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(TMP)で活性化させた1,3-シクロヘキサンジオンを作用させると、最高96%eeのエナンチオ選択性で相当するスピロシクロブタノン体が生成する新しい反応を見い出した。シクロブタノンの生成には、ルイス酸触媒とルイス塩基触媒の両方が必須である。
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