研究概要 |
本研究は,低水温ストレスが水稲の生育,収量に及ぼす影響を,シミュレーションモデルによって体系的かつ定量的に解明することを目的とする。モデル化に必要な基礎情報を収集するために,冷水掛け流し圃場試験を行い,乾物や子実生産およびそれらに関連する生理形質の水温反応を調査した。得られたデータを基に,水温,気温,日射量などから水稲の生育・収量を定量的かつ動的に説明するモデルを開発した。開発した生育モデルは,発育ステージ,主稈出葉数,分げつ数,葉面積の展開,受光,受光量から乾物への変換,乾物の分配の要素から構成される。主稈葉数と分げつ数を異なる水温関数で表し,両者の積と葉面積の関係を基に葉面積の増加を推定した。また,稔実歩合は幼穂の温度条件に大きく依存するが,幼穂位置はその発育過程において節間伸長に伴い大きく変化し,生殖生長期の中期頃までには水中にあるのに対して,同期後半には水面上となる。稔実の温度関数にはこのような幼穂温度環境の影響を取り入れた。また,桑形ら(2001)が開発した熱収支に基づく水田水温モデルの推定精度を比布,岩見沢,札幌,大野の4地点で検証した。水温推定を結合させたモデルの北海道における広域適用性を検証するために,1990〜1999年を対象に上記の4地点についてシミュレーションを行った。その結果,本モデルは,日射,気温などによって生じる収量の地域・年次間変動(19〜677gm^<-2>)をよく再現することがわかった(標準推定誤差=79gm^<-2>,実測と推定値の相関係数=0.832,n=33)。以上のことから,水温推定と生育・収量予測を結合した本モデルは,ステージごとに異なる生育の水温反応の定量的解析や今後予想される温暖化の影響評価などに広く活用できるものと考えられた。
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