研究概要 |
木材の横方向の物性は,細胞の形状・配列といったセル構造体としての構造に強く依存する。本研究は,物性として弾性率と誘電率を取り上げ,これらの物性と細胞の形状・配列の関係を理論的に考察し,樹種特性および異方性の現れる原因を解明することを目的とする。針葉樹材7種について,早材横断面の準超薄切片の光学顕微鏡写真をコンピュータ画像化し,その画像についてフーリエ変換を行なって,2次元パワースペクトルを求め,各樹種を代表する1細胞の幾何学的パラメーターを決定し,細胞形態モデルを構築した。このモデルを用いて,放射および接線方向の弾性率と誘電率を理論的に求め,得られた結果を,20℃,60%RH,11Hzで測定した早材の弾性率および20℃,1MHz,全乾状態の誘電率の文献値と比較した。用いた全樹種の細胞形態モデルは,6角形であったが,Tsuga heterophyllaは,矩形に近く,Chamaecyparis obtusaとPinus radiataは,明確な6角形を示した。細胞モデルの弾性率を算出する式は,要素角,細胞壁厚,放射方向に対する接線方向の壁長さの比の関数となり,壁の曲げおよび伸縮変形の寄与が和となる形式で表現できた。弾性率は,同一密度で比べたとき,樹種によって値が著しく異なったが,その主原因は,細胞の要素角の差異にあり,要素角が大きくなるほど弾性率が大きくなった。放射方向の弾性率が放射方向のそれに比べ小さい原因は,細胞壁の曲げ変形の寄与が大きいことによった。計算値は,実験値と定量的によく一致した。誘電率については,理論考察によって,異方性や樹種特性が現れる主原因が,細胞壁と内こう空隙の配列形態と細胞の要素角の差異によることが明らかとなった。
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