研究概要 |
本研究はミュータント系マウスを材料に,その形態的表現型を種々の形態学的方法を駆使して詳細に記載し,遺伝子のはたらきの全体像に迫ることを目的とする。平成11年度にはアリール炭化水素受容体(AhR,ダイオキシン受容体)ノックアウトマウス(Ahr-/-)とメロメリアマウス(mem/mem,自然発生)を対象に解析した。平成12年度にはこれらに加えてトリソミー16マウス,トリソミー14マウス,ヘアピン尾マウスについても観察した。Ahr-/-個体の肝臓では血管走行や小葉構造の乱れが新たに見出され,Ahr遺伝子と血管形成との関連が示唆された。ダイオキシンはAhRと同じくPASドメインをもつ転写因子HIF-1αを誘導するが,この因子は血管新生にもかかわるとされ,Ahr-/-個体ではHIF-1αの発現にも変化が生じ,これが肝臓における血管異常と関連している可能性が考えられる。mem/mem個体では四肢以外には明らかな形態異常は認められず,mem遺伝子は肢特異的に作用するものと推測される。mem変異遺伝子を2つの近交系に導入する試みは現在も進行中であるが,mem/mem個体に見られる形態変異が背景遺伝子の影響を受けることを示唆する所見が得られつつある。トリソミー16マウスはヒトのトリソミー21(ダウン症)のモデル動物で,口蓋裂の頻度が高い。妊娠末期胎児の口蓋ヒダを観察すると,口蓋裂を免れた胎児でも,ヒダ数の減少,短小,正中分断,内側癒合など,高度のパターン異常が必発していた。大血管転換など心奇形を多発するトリソミー14マウス,椎骨異常や曲尾を示すヘアピン尾マウスでも口蓋ヒダパターンの異常が観察され,口蓋ヒダが口蓋形成異常の指標として意義あることが示された。
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