研究概要 |
本研究の目的は、キマーゼ由来のアンジオテンシンIIの病態生理学的意義を明確にし、キマーゼ阻害薬の有用性を明確にすることであった。イヌバルーン傷害モデルでは、血管肥厚部位でキマーゼ活性が有意に上昇し、このモデルではアンジオテンシンII受容体拮抗薬は内膜肥厚を抑制するが、アンジオテンシン変換酵素阻害薬は無効であることを報告した(J.Hum.Hypertens.13:S21-S25,1999)。また、イヌバイパスグラフトモデルの血管肥厚部位では顕著にキマーゼ活性が上昇し、このモデルでは、アンジオテンシン受容体拮抗薬とキマーゼ阻害薬が有意にその内膜肥厚を抑制することを報告した(FEBS Lett.467:141-144,2000,Life Sci.68:41-48,2000)。また、最近PTCA後の再狭窄予防を促す薬物として日本循環器学会のガイドラインにも掲載されたシロスタゾールは、イヌバイパスグラフトモデルの内膜肥厚とキマーゼ活性を有意に抑制していた(Eur.J.Pharmacol.411:301-304,2001)。このことは、シロスタゾールの内膜肥厚抑制にはキマーゼ阻害作用が関与している可能性を示唆するものである。これらのことより、キマーゼは傷害血管におけるリモデリングに重要なアンジオテンシンII産生酵素として機能していることが明らかになり、その阻害薬はこれら病変に有効であると考えられる。一方、心臓におけるキマーゼの病態生理学的意義を明らかにする目的でハムスター心筋梗塞モデルを作製した。このモデルでは梗塞後3日で顕著なキマーゼ活性の上昇が認められ、アンジオテンシンII受容体拮抗薬はその死亡率を有意に抑制するのに対し、アンジオテンシン変換酵素阻害薬は有意な改善効果が認められなかった(2000年、日本薬理学会総会にて発表、現在投稿中)。これらのことは、心筋梗塞後の心機能不全にキマーゼが産生するアンジオテンシンIIが関与することを示唆するものであり、キマーゼ阻害薬は梗塞後の心機能改善に有用であると考えられる。
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