研究概要 |
本研究の動機は,最近われわれが従来全く報告のない新しい疾患「ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)欠損症」の症例を発見したことによる.世界最初の症例である.患児は2歳頃から,発熱,白血球増多,関節炎を伴う慢性炎症,肝腫大,赤ワイン色血清,赤血球破砕を伴う溶血性貧血を認め,さらに凝固,線溶系の異常亢進,vWF因子,トロンボモデュリン,血管内皮由来サイトカインの高値から毛細血管内皮細胞障害が疑われた.高血圧を認め,6歳で死亡した.高脂血症も認めた.本症例では溶血が存在するにもかかわらず,低ビリルビン血症,高ハプトグロビン血症がみられることが病態解明のきっかけとなり,検索の結果,本症の原因はヘモグロビンからビリベルディンへの代謝をつかさどるHO-1酵素蛋白の遺伝的欠損症であることが解明された. HO-1は感染,低酸素などにより強く誘導発現され,生体に対する酸化ストレス防御因子として重要である.さらにHO-1はCOを合成し,COは微小循環を確保し,毛細血管内皮の保護とその機能恒常性の維持に重要である.したがって本例にみられる多彩な症状は,HO-1欠損による血管内皮細胞障害,血液細胞障害やストレス防御機構の破綻に起因する可能性が高い. これまでに本症例の解析,および関連する研究で次の点が明らかになった. 1)HO-1遺伝子解析から,母親ではエクソン2の欠損,父親ではエクソン3に2塩基欠損があることがわかり,患児はその複合へテロ接合体であった.さらに母親アリルにはAlu-Alu関連遺伝子再構成に基づく,エクソン2を含む大きな染色体遺伝子の部分欠損が証明された. 2)正常HO-1遺伝子を含むレトロウイルスベクターの作成し,患児細胞株LCLへ遺伝子導入したところ,HO-1蛋白発現と機能の部分的正常化がみられた.ただしこのHO-1発現は恒常的で,生理的にみられるようなストレス誘導性発現ではなかった. 3)本症例では特に,尿細管の傷害が経過とともに増悪した.電顕では血管内皮の剥離と異常物質の沈着が認められた. 4)血管内皮細胞株ECV304にHO-1遺伝子をレトロウイルスベクターを用いてトランスフェクトし,HO-1蛋白発現の異なる種々の細胞株が樹立された.それらの細胞株のストレスに対する抵抗性を検討した.
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