研究概要 |
私たちはこれまでに,胎生期マウス・ラットへの低線量電離放射線照射の影響が大脳皮質の層構築異常として生後も永らく残ることを明らかにしてきた. 本研究では,胎齢14.5日マウス胎仔全脳においてX線0.5Gy照射群と非照射群の間で発現に差異を生ずる遺伝子群を,大脳皮質層構造形成に関わる重要な新規遺伝子候補とみなし,RLCS(Restriction Landmark cDNA Scanning)法と呼ばれる分子生物学的手法を用いて探索し,現在までに,10種類の酵素によるプロファイルを作成し,これまでに,延べ12,000スポットのスキャンニングを行った.低線量X線照射群と非照射群でのプロファイルを比較することで見出された,発現変動を示すスポット中からシークエンス等の解析を開始した.NcoIプロファイルで抑制的発現制御を受けているスポットの一つは,全長cDNA配列はデータベースに収載されていたものの機能解析等については全く報告されていない遺伝子に対応していた.この遺伝子は,295ないし306アミノ酸から成る免疫グロブリン・スーパーファミリーに属する細胞接着分子様の蛋白をコードしていた.さらに,その発現量をリアルタイムPCR法により解析したところ,照射によって,正常の30〜40%のレベルにまで抑制されていた.今後,探索をさらに継続する一方,これら遺伝子を指標として,胎生期の大脳皮質層構築形成の分子機構に迫りたい. 一方で,層構築形成期にある個々の神経細胞間において,照射の影響を受ける遺伝子群をより効率的に比較・探索するための技術として「単一細胞RLCS法」の技術的検討を行った.それに必要なサンプル調整法について技術的検討をほぼ終了し得た.単一細胞由来のcDNAライブラリーを作製することが可能になったことから,移動層にある神経細胞に焦点を絞った特異的発現遺伝子のスクリーニングのための基盤を確立することができた.
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