研究概要 |
胃癌や大腸癌が多発する家系があることは,消化器癌発生に遺伝的な問題が関与していることを示唆する.現在,消化器癌発生と遺伝的の関係は,一部の癌を除いていまだ不明である.われわれは,インプリンティングを受ける遺伝子のLoss of imprinting(LOI)が,癌多発家系と関連があるのか否かを胃癌や大腸癌で検討を進めている.疫学的,臨床病理学的検討では,家系内に胃癌が多発する頻度は,胃癌患者ではコントロールの2倍と高率で,病理学的には多発胃癌が多い特徴が判明した.この結果は,Digestive Surgery誌に掲載された.44例の大腸癌組織におけるIGF2とH19のLOIを検討したところ,Informative症例において,H19のLOIは認められなかったが,IGF2のLOIは22%に認められた.即ち,大腸癌においては,H19よりIGF2のLOIが重要な意味を持つと考えられた.また,健常人262人の末梢血中リンパ球のIGF2(insulin-like growth factor II)のLOIの頻度を検討したところ,10%にIGF2のLOIが認められた.この結果はBiochemical and Biophysical Research Communications誌へ掲載された.現在,この262人につき,梢血中リンパ球のIGF2のLOIの有無で,将来胃癌や大腸癌の発生率に差が出るのか否かを検討中である.インプリンティング異常はメチル化の異常で,後天的要因で起こるとされるが,末梢リンパ球中のIGF2遺伝子のLOIが胃癌,大腸癌発生と関連するなら,インプリンティング異常を引き起こすメチル化異常が,むしろ遺伝的要因でおこりうると考えられ,胃癌,大腸癌発生の高危険群を血液検査で特定できる可能性が示唆される.
|